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ボドゲ×教育(上)「楽しい」の中に成長がある~ゲームデザイナー編 【ナゴヤは首都になれるのか(ボードゲームの)】④

2022年8月31日 16時30分 (8月5日 10時47分更新)

こんな「あなた」に届けたい

・知的好奇心を刺激されたい「あなた」
・幸せの総量を増やしたい「あなた」

 突然ですが、ボードゲームに関するこんなキャッチフレーズを目にしたことはないでしょうか。
ボードゲームで頭が良くなる!
ボードゲームで学校の成績が上がる!
ボードゲームでコミュ力(りょく)アップ!
 実際、教育やいわゆる「知育」用途を強調し、売りにしているボードゲームも珍しくありません。子ども向けだけでなく、企業の研修や、SDGsを学ぶツールとして使われているという記事もメディアで見かけます。知育の面で取り上げられる場合は、将棋の藤井聡太五冠の活躍も影響しているでしょう。
 私自身も以前、代表的な社会教育施設である図書館でのボードゲーム活用を取材し、記事を書いたことがあります。(【関連記事】「図書館でボードゲーム」広がる
 一方で、そのようなボードゲームの「効用」に懐疑的だったり「ただ楽しめばよい」と思ったりする人もいるでしょう。それも至極ごもっともです。とはいえ、勝つために戦略を考えたり得点計算をしたりと基本的に頭を使うものですし、対面でコミュニケーションをすることも含めて、何かしらの知的教育効果はありそうです。
 今回のテーマは「ボードゲーム×教育」。ボドゲの首都に、将来を担う子どもたちを教育する場は欠かせません。
 ナゴヤを拠点とする「ボードゲームデザイナー」と「学習塾塾長」、そしてナゴヤが誇る最高学府・名大(めいだい)からは「名古屋大大学院教授」。三者三様の関わり方を通して「ボドゲ×教育」のいまとこれからを探ります。(デジタル編集部・小柳津心介)

「ボードゲームラボYUBO」が開かれている木のおもちゃの店「ゆうぼ」=名古屋市千種区で

「楽しい」から生まれる学び

 「一番大事なのは楽しむこと。負けても楽しんだもの勝ちです!」
 ホワイトボードの前に膝立ちした白衣姿の若い男性が、子どもたちを前にそう語りかけました。床に座った子どもたちと目線は同じ。「習い事」のような「学童保育」の一場面のような、ちょっと不思議な雰囲気です。
 名古屋市営地下鉄東山線の覚王山駅2番出口を出ると目の前にある、1985年創業の木のおもちゃの店「ゆうぼ」。そこに併設されたアトリエで、今年5月に新たに始まった体験教室「ボードゲームラボYUBO(ゆうぼ)」の一場面です。
 初回のこの日は、小6の男の子と小1の女の子が参加。「クラスター」や「キャプテン・リノ」といったゲームを楽しんだ後に、それぞれが感じた面白さをメモし、ファイルにとじていきました。

クラスター 強力な磁石をひもでつくった輪の中に、くっつかないように1個ずつ置いていく。最初に置ききった人が勝ち。1~4人、14歳以上(幼児と遊ぶ際は誤飲に注意)、10分。

キャプテン・リノ カードでバランス良く壁や屋根を組み立てて、タワーを高く積み上げる。最初に手札を置ききった人が勝ち。2~5人、5歳以上、10分。

 「いますごく盛り上がってきているボードゲームの面白さを、次の世代につなげていきたい。子どもたちにさまざまな遊びを体験してもらい、遊ぶときの選択肢としてボードゲームが挙がるようになってほしい」
 白衣姿で講師を務めていたのは、ゆうぼで働く明地宙(メイチソラ、本名・勝田空人)さん(28)。子どもたちが帰って静かになったアトリエで、「ラボ」を始めた理由を語り出しました。

「ボードゲームの面白さを次世代につなげたい」と語る明地宙さん=名古屋市千種区で

 明地さんは、「フォグサイト」が代表作のボードゲームデザイナー。同作は大手ボードゲーム会社から出版もされています。(【関連記事】創作ボードゲーム「ゲームマーケット大賞」受賞 勝田空人さん

フォグサイト 霧に包まれた遺跡が舞台。1人の「遺跡役」と1~3人の「探検家」に分かれて遊ぶ。探検家は脱出を、遺跡役は脱出の阻止を目指す。2~4人、10歳以上、30分。

 現役のゲームデザイナーが講師というのが、この教室の最大の特徴と言ってよいでしょう。
 いくつものゲームで遊んで面白さの理由を学ぶことから始まり、約1年で最終的にはオリジナルのゲームを作るというカリキュラムにも、その強みが表れています。
 「僕自身の子どものころもそうだったけど、自分で作ったものを遊んでもらうというのは、ものすごく貴重な体験になる。ゲームで遊ぶだけではなく、作った達成感まで含めて一つのプログラムにしたかった」と力を込めます。
 「ゲームは『楽しい』であるべきで、『楽しい』だけで十分。それ以上のものは要らないっていうのはもちろんある。ただ『楽しい』の中に成長の要素も含まれていると思っています」
 教育的な「効用」をそれほど前面には押し出さないスタンスを、こう説明します。
 「自己肯定感や非認知能力(コミュニケーション能力や創造力など、数値化できない知的能力)を養うためにボードゲームをするのではなく、ボードゲームで楽しんだ結果、自己肯定感や非認知能力が養われればいい。まず第一に楽しんでもらった上で、『楽しい』とは何か、どういう仕組みによって『楽しい』が生まれるかを、言語化したり俯瞰(ふかん)して見てもらえるようになれば」

さまざまな知育玩具などが並ぶ「ゆうぼ」店内=名古屋市千種区で

教室だけど、学校じゃない

 明地さんは昨年まで、出身地の岐阜県恵那市で学童保育の職員として勤務していました(「ラボ」が学童保育っぽい雰囲気だったのにも納得です)。自身が作ったゲームも含めて、さまざまな遊びを子どもたちとしてきた経験も「ラボ」につながっているといいます。
 「『ラボ』っていう言葉には『実験場』という意味もあります。教室だけど、学校じゃない。塾とも違います
 なるほど、不思議な雰囲気の理由が分かった気がしました。

子どもたちに「キャプテン・リノ」の遊び方を教える明地宙さん=名古屋市千種区で

 このラボで、子どもたちはどんなゲームを生み出すのでしょうか。明地さんは「いまでもゲームマーケット(オリジナル作品などが一堂に会するボードゲームの祭典。本連載第1回参照)に子どもの作品が出展されているし、今後もどんどん増えていくと思う」と見通しを語ります。
 ゲームデザイナーを目指す子どもたちが増えていくこと。それは「ボドゲ✕教育」の大きな成果の一つでもあり、とても夢のある話です。まさにいま、同じようにゲームを作っている私にとっても、楽しみで仕方ありません。
小柳津心介
名古屋デジタル編集部
写真

愛知県出身。2002年入社。高山支局(岐阜県)、志摩通信部(三重県)、長野支局、東海本社整理部(浜松市)、萩原通信局(岐阜県)を経て17年からデジタル編集部。東海本社時代は静岡の模型業界を主に取材。ボードゲーム好きで社内の同好会長を務め「ナヴェガドール」や「凶星のデストラップ」がお気に入り。話題のテレビアニメ「リコリス・リコイル」にボードゲームが登場するのがちょっとうれしい。ツイッターアカウント

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